第四章 光の向こう
軍の艦艇が黒田たちの船を制止しようとした。通信が入った。「直ちに停止せよ。これ以上進めば強制排除する」という命令が、繰り返し送られてきた。
黒田は通信を切った。
前方の光は、近づくにつれて大きくなった。光は揺れていた。波のように揺れている。その向こうに何があるかは見えないが、そこに何かがあることは確かだった。
「早川さん、本当に行きますか」と黒田は聞いた。行くと決めたのは自分だが、早川に確認した。
「行く」と早川は即答した。「あの光の向こうに、みんながいる」
「証拠はない」
「でも俺は確信している。あの光が消えたとき、みんなの顔が穏やかだったことは確かだ。恐ろしい場所に連れて行かれる顔じゃなかった」
軍の艦艇が警告射撃を行った。船体の右舷側近くを、レーザー砲の光が通過した。船が揺れた。
「黒田さん」と早川が言った。
「わかってる。でも止まれない」
前方の光が、さらに大きくなった。もう視界いっぱいに広がっている。淡い白と青が混じった光の膜。その表面が、生き物の皮膚のように、微細に動いている。
黒田は数列のことを思い出した。あの数列が音になり、夢になり、今この光になって目の前にある。一本の線でつながっている。信号、夢、そして扉。
軍の艦艇がさらに近づいてきた。今度は警告ではなく、本格的な射撃体勢を取っている。
しかし黒田は気づいた。軍の艦艇が停止したことに。射撃体勢のまま、止まっている。
「なぜ止まったのか」と早川が言った。
「あの光が近づいたから、かもしれない」
黒田たちの船は、光の膜の中に入った。
その瞬間、全ての音が消えた。
エンジン音も、システム音も、自分たちの呼吸音さえも消えた。完全な静寂。宇宙の真空よりも深い静けさ。しかし苦しくなかった。むしろ、長い間張りつめていた何かが緩んでいくような、柔らかい感覚があった。
光の膜を通り抜けると、そこは別の空間だった。
宇宙ではなかった。少なくとも、黒田が知っている宇宙ではなかった。空間全体が淡く発光していて、星はない。代わりに、浮かんでいるものがあった。
人間だった。
二十七人の人間が、その空間の中に浮かんでいた。目を閉じて、穏やかな顔で、ゆっくりと漂っていた。
「みんながいる」と早川が言った。声が震えていた。
黒田は操縦を止め、ゆっくりと船を進めた。二十七人の中に、オリオン・ゲート7の乗組員六人もいた。船長の佐藤の顔も見えた。全員が生きていた。呼吸をしていた。ただ眠っているように見えた。
そのとき、声がした。
言葉ではなく、振動として。体の内側に直接響く感覚。あの数列の音楽と同じ種類の、しかしずっと豊かな、複雑な振動だった。
黒田はその振動の意味を、不思議と理解できた。
「この者たちを返すことができる。しかしあなたたちに、先に伝えなければならないことがある。」
黒田は早川を見た。早川も同じものを聞いていた。頷いた。
「聞きます」と黒田は言った。声に出した。言葉が振動として伝わるかどうかわからなかったが、そうするしかなかった。
振動が返ってきた。
「私たちは、あなたたちの近くに、長い間いた。観察していた。危害を加えるためではない。理解するために。しかしこの二十年、あなたたちが私たちの領域に侵入する頻度が増した。最初は一隻、次に二隻、そして四隻。あなたたちは私たちの存在を知らないまま、境界を越えてきた。それが事故でないなら、迷いであっても、一度会う必要があった。」
黒田はその言葉を、頭の中で反芻した。観察。理解。境界。
「二十七人を連れて行ったのは、なぜですか」
「危険だったからだ。彼らがこれ以上進めば、戻れない場所まで来ていた。私たちが引き留めた。眠らせて、ここで保護した。傷つけていない。」
「軍は、あなたたちのことを知っているのですか」
「あなたたちの一部は、長い間知っている。しかし全員には伝えていない。それはあなたたちの問題だ。私たちが決めることではない。」
黒田はその答えに、複雑な感情を持った。軍は知っていて、隠していた。二十七人が消えたことも、おそらく知っていながら、秘密にしてきた。
「この人たちを、返してもらえますか」
「それが目的で来たのだろう。返す。」

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