第三章 信号の源
黒田が電力ログの数列を航法局に報告した翌日、局から緊急の連絡が来た。
「その数列を、他の場所でも確認している」という内容だった。
過去三年間に通信断絶が起きた宇宙船が、オリオン・ゲート7を含めて四隻あった。そのうちの二隻については黒田も知っていたが、残りの一隻は局内でも限られた人間しか知らない極秘扱いの案件だった。そして四隻全ての電力ログに、同じパターンの数列が記録されていた。
つまりこれは、孤立した事件ではなかった。
黒田は早川にこのことを伝えた。
「四隻で同じことが起きていた。行方不明者の総数は二十七人になる」
早川の表情が変わった。最初に見たときの虚ろな表情ではなく、何かを理解しようとする表情に。
「二十七人が、同じ場所に行ったのか」
「そう仮定すれば、つじつまが合う。一か所に向かって呼びかけが行われ、それに応じた人間が移送された。何らかの方法で」
「移送、という言葉を使うということは、黒田さんは彼らが死んでいるとは思っていないんですね」
黒田は答える前に少し考えた。「思っていない。根拠はないが、死んでいるとは思えない」
「俺も思えない」と早川は言った。「あの光の中にいた全員の顔が、安らかだった。恐怖の顔じゃなかった。あれは死の顔じゃなかった」
黒田は局から送られてきた追加データを分析した。
四隻の船が通信を絶った場所を地図上に落とすと、全ての場所が木星圏外縁部の特定の領域に集中していた。楕円形の範囲で、長径にして約三億キロメートル。広大な範囲ではあるが、宇宙全体から見れば一点に等しい。
この領域に、何かがある。
黒田は局に申請を出した。この領域に向けた探索ミッションを実施したい、という申請だ。
返答は二時間後に来た。
「申請却下。当該領域は軍事管轄区域に指定済み。民間機の進入不可。」
軍事管轄区域。黒田は眉をひそめた。いつ指定されたのか。なぜそんな区域が木星圏外縁部にあるのか。
局に問い合わせても返答はなかった。上司に連絡しても、「詳細は開示できない」という答えが返ってきただけだった。
黒田は早川に伝えた。「当該領域は立入禁止になっている。軍が管轄している」
早川は少し笑った。最初に笑顔を見せた瞬間だった。しかし笑顔とは言えないような、苦い表情だった。
「それが答えじゃないですか。軍は知っている。ずっと前から知っていた。だからこそあの領域を管轄下に置いた。二十七人が連れて行かれたことも、おそらく知っている」
「知っていて、隠している」
「そしてあなたを派遣したのは、俺が何を知っているかを確認するためだった、という可能性も」
黒田はその可能性を、最初から頭の中に置いていた。しかし聞いた方が早い、という判断がある。確かめる方法は一つだけだった。
黒田はその夜、密かに早川を連れてオリオン・ゲート7を出発させた。
目的地は、軍事管轄区域の中心部だった。
行けるところまで行く。捕まったら捕まったときに考える。それが黒田の判断だった。
航行を開始して六時間後、早川が言った。「何か来ます」
センサーに反応があった。大型の船体。軍の識別コードを持つ艦艇が、四方から近づいてくる。
しかし黒田の目に飛び込んできたのは、その艦艇の影ではなかった。
前方、遥か彼方に、光が見えた。
点のような光ではない。面のような光だった。宇宙空間に、薄い膜のように広がる淡い光。まるで宇宙に扉が開いているような光だった。
「あれが」と黒田は呟いた。
「あれが」と早川も繰り返した。二人の声が重なった。
「行きますか」と早川は言った。
黒田は返事をしなかった。しかし操縦系統に手を伸ばした早川を、止めなかった。

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